1999.10.12 DRAFT
2000.3.23 FIX

空気ペンプロジェクト:

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要旨

我々の試作した「空気ペン」は,街角や廊下など, 任意の空間に自由に手 書きで文字や絵を書き込むことのできるデバイスであり, 書き込んだ情報は、主にHMD(Head Mounted Display)を通して見ることができる.


抗議
5/29日付日本経済新聞19面に掲載された空気ペンは, 玉川大学工学部の単独成果ではなく電子技術総合研究所との共同研究の成果で あります.報道を担当された記者の方は共同研究の事実を充分に承知していな がら,玉川大学工学部が単独で成果を挙げたとの印象を与えかねない記事をか かれましたこと,大変残念に思います.日経あるいは記者の方からの経緯説明 かあるいは記事の訂正があることを強く願っております.(5/29) (その後,記 事訂正はしないが,別の記事のときに配慮するとの連絡がありました.6月上 旬)

ウエアラブル社会に向けて

目的

電総研情報科学部の研究グループは,近未来の情報環境(ウエアラブル情 報社会)で求められる技術を先行して開発し,ウエアラブルPCという新しいマー ケットを創出する可能性を探る研究を実施中である.その一環として玉川大学 工学部の研究グループとともに新しい情報共有メディア「空気ペン」を試作し たので報告する.

空気ペンとは,空中で動かしたペンデバイスの位置情報を電子的に保存し, HMD(Head Mounted Display)を使って現実世界と重ねて閲覧するシステムであ る.専用のHMDをつけると,ワイヤレスのペンで空中に書いた文字を現実空間 に重ねて見ることができる.これはいわゆるAR(Augmented Reality)と呼ばれ る技術である. ウエアラブルPCのアプリケーションとして一般ユーザが使用するコミュニケー ションメディアとして構想されて実装されたのは今回が初めての試みである. 発案及び実装は電総研情報科学部山本吉伸 主任研究官 と玉川 大学工学部 椎尾一郎助教 授のチーム.

そもそも,持ち歩くPCに大きな画面をつけることはできない.技術者はつ いつい欲張っていろんな情報を見ることができるように..と考えがちだが, 小さな表示盤しかもっていないところに多くの情報を詰め込むのは無理がある. ならば,空中に書いてしまえ!というのが研究者たちの発想であった.

主な用途

空気ペンは,なによりもまず,楽しめるメディアを指向している.しかし もちろん実用的にも有用である.

HMDをつけたユーザにしか情報が見えないので,たとえば国立公園のよう に看板を林立したくないようなところにも見易い情報案内板をたくさん設置す ることができるようになる.車に搭載すれば,レストランなどの看板が,実際 に道路上に立っているかのように見ることができるようになる. HMDを装着したユーザからは,このような映像が 見えることになります.

出勤途中にいつも見かける郵便ポスト.「あそこに投函しよう」と思って はがきを持って出たのに,いっつも帰宅してから忘れてたことに気づく..こ んな経験は誰にでもあるはず.既存のスケジューラは「時間」にマークをつけ ることしかできないために,ポストの近くにきたときにベルを鳴す,なんてこ とはできなかった.しかし空気ペンで使われている技術ならば,場所を中心と してマークを設置することができるので,ポストのそばに自分専用の看板を立 てておくことができる「はがき,わすれずに!」.

この他,たとえば仲間どうしでだけ使う伝言板や,大学校舎で行う打ち合 わせの場所を示す張り紙などに利用するために,システムには「グループ」の 概念を組み込んでいる.

研究としての意義

本プロジェクトの第一の目的は,「空気ペン」の構想がみんなで情報を共 有するメディアとして有望であることを示唆することにある.

第二の目的は,実用化技術として研究が必要な論点を明確にすることであ る.空気ペンの実装により,様々な種類の位置センサ(室内センサや屋外セン サ(GPS))をどのように統一的に扱うべきなのか,空間をどのように分割して管 理することが望ましいのか,ユーザインタフェースとしてどのようなものが必 要なのか,それらを具体的に検討することが可能になったと言える.たとえば 描画したデータをインフラにどのように流すか,その同期をどのようにとるか などは,非常に地味な研究課題ではあるが実用化を考えるうえで重要な論点で ある.例え研究所であっても,実用化を目指す上では具体的な試作の試みが大 きな価値を持つと考えている.

課題

近い将来には,空間に配置した図形をWeb上で移動したりすることもでき るようにする予定である.(実装中)

また,本研究を通じて,既存の位置検出インフラが非力であることも一層 明確になった.すでに電総研では室内レーザレーダの研究開発(リーダー:光 技術部 伊藤日出男主任研究官)を進め,玉川大学 椎尾研究室ではナビゲタ(歩行した距離を測定するための靴型デバイス)の研 究開発に取り組んでいるところである.

日常に持ち歩くデバイスとして,HMDはまだまだ負担が大きいということ も研究グループでは議論されている.これに対応して,より高度技術を応用し た次世代HMDの開発を進める方向と,HMDを使わないで空間に文字を書く共有メ ディアを目指す方向が考えられ,どちらも重要なテーマであると認識している.

予算

電総研側グループの成果は電総研情報科学部の知的社会基盤工学技術の研 究開発(1997年〜1998年; リーダー 久野巧 主任研究官)の一環として行われた 議論を元に,実現に至ったものである.

玉川大学椎尾研究室の成果は, 新エ ネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)「新規産業創造型提案公募事業」 の支援を受けた研究によってもたらされた. NEDO提出報告 書

室内レーザレーダの研究開発(リーダー:光技術部 伊藤日出男主任研究 官)は新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)「新規産業創造型提案公募 事業」の支援を受けて推進している.

技術 詳細情報はこちらです.
左図は,空気ペンの全体構成を示している.描画データは座標の絶対位置と ともにサーバに格納され,共有される.HMD(あるいはコンピュータ)を持っ ているユーザでは情報は共有されるが,それ以外の人からは見ることができな い.ただ,公共のメッセージボードのようにデータをアクセスする手段をつけ ることができる.
右図は,空気ペンのグリップ部のモックアップデザインである.ペ ンとして機能する他,小型液晶面がスライドして取り出せるようになっている. 詳細な構造はこちら.

拡張子がasfのfile(動画)を見るには,Media Playerが必要です.Netscape でうまく見えなかった場合には,IE5でお試しください. Get Windows Media Player
ap-closeup.asf ap-closeup.asf
6秒(159K): エアペンのHMDを装着したユーザ.グラスの上部に加速 度センサと絶対位置センサが取り付けられている.


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27秒(540K): ユーザの腰には,note PC等を詰めたバッグがある.バッグからは電源ケーブルだけはつなげている.映像では,腰のバッグと,ユーザがペンで文字を書いているところを紹介する.


ap-quick.asf ap-quick.asf
6秒(159K): あたりを見回すときなど,普段から顔の動き は高速である.そのため,空気ペンはこのような高速な動きにも追従しな ければならない.


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38秒(788K): HMDをつけているユーザからはどのような映 像が見えているのか,また描画はどのようにして行うのか,顔の動きに反 応して映像がどのように変化するのかをご覧いただきます.
  1. 情報処理学会第59回全国大会 向け論文(PDF版)
  2. 情報処理学会第59回全国大会 向けプレゼンテーション資料
  3. NEDO 報告
  4. 日刊工 業新聞 2000.4.19 1面
  5. 椎尾一郎, 山本吉伸, "コミュニケーションツー ルのための簡易型AR システム" インタラクティブシステムとソフトウェアVIII(日本ソフトウェア科学会WISS2000) pp. 117-124, 近代科学社, ISBN4-7649-0285-0, 2000.12.6-8.

他の研究グループの活動に milk というのが あるそうです.要素技術として似ていますし,どうようのアプリケーションを 構想しているという話です.
yoshinov@etl.go.jp