(00.02.11)(01.02.01)
Japanese only

語尾上げの理由


もう数年来,「語尾上げ言葉」が多くの批判を浴びてきました.語尾上げ 言葉というのは,別に疑問文でもないのに単語の語尾のイントネーションを上 げてしゃべる,しゃべり方です.「普段,遊ぶっていったらなにすることが多 いの?」「カラオケ?」というやつですね.俺に聞くなよ.と突っ込みたくな るヤツです.

いつだったか,CNNでも語尾上げ言葉は言語の乱れとして由々しき問題で はないか?という報道をやっていたように思います.もちろん,日本の話では なく,アメリカの話.だから語尾上げ言葉というのは世界的な潮流ということ になります.

これについて,慶應義塾大学医学部の小此木啓吾教授は「断定的な言明を さけることによって,対人摩擦を減らそうとする行動の一つ」と分析してお られます(パーソナルコミュニケーション)

小此木教授の説は非常に強力なものなのですが,それに対して私は『語尾 上げ言葉は社会の「あるニーズ」を反映したものではないか』という仮説を持っ ています.その仮説の鍵は,テレビ番組にあります.

最近,テレビ番組にはクイズ形式のものが多くなってきたと感じたことは ありませんか?実際,クイズ形式のものは非常に多いのです.情報教養番組に 分類されるものでも,かなりのものがクイズ形式を取っています.「世界ふし ぎ発見!」とか,例を挙げればキリがありませんね.これには理由があります. クイズ形式だと視聴者がより真剣に見てくれる,ということが知られているか らです.

質問を投げると相手が真剣に見てくれる....自分の発言も,疑問文の 形式にすれば相手の注意を喚起できる....これが語尾上げ言葉なのではな いでしょうか.相手と簡単にインタラクションを構成できる形式である「疑問 形」を無意識的に使うのは,インタラクションが下手な世代の,相手の注意を 喚起する工夫なのではないでしょうか.

私たちは,自分がしゃべらなければならないタイミングを常に推し量って います.発言権の移行をターンテイキングと言います.相手とのインタラクショ ンを成立するためには,適切に相手と自分とがメッセージをやり取りする必要 があります.だれかが一方的にしゃべるのではインタラクションにはなりませ んよね.私たちは,適切なターンテイキングのタイミングとして,とくに相手 の疑問文には注意を喚起されてしまうのではないでしょうか.

疑問形は人間同士のインタラクションの基本的な枠組み==相手がメッセー ジを投げ掛け,もう一方がそれに反応する==を提供しています.だから,相 手とのインタラクションを容易に作ることができるということも,なにか関係 があるかもしれません.

ところで,語尾上げ言葉には別の機能があるんじゃないの?と思われた方 もいらっしゃるのではないでしょうか.つまり「○○..みたいな?」のよう に,自分の発言に自信がないときに同意を求める機能です.(これは冒頭で述 べた小此木先生の考え方と同種の論点だと思います.)でも,同意を求める, ということはすなわち相手の反応を求めるということに他なりませんよね.私 たちは自分の発言に対して相手の反応が欲しいのです.つまり,一方的な発言 だけではなく,インタラクトしたいのです.

なお,本当に自分の発言に疑問があって疑問文となるとき には本仮説は関係ありません.

以上,「語尾上げ言葉は,相手の注意を喚起するために行っている無意識 的な工夫ではないか?」という仮説でした.

なお,語尾上げ言葉を気にし始めると,他人が語尾上げ言葉を使うたびに イライラしてきてしまう傾向があるようです.こんなときは「これは社会の変 化を観察するいい機会だ」と思って,相手の語尾上げを観察するという立場に 立たれることをお勧めする次第です.


yoshinov@i.am