Time-stamp: "2005-07-31 23:08:35 yoshinov"

本プロジェクトは「パブボード・プロジェクト」として2000年から継続して取り組んでいるものです.(最初の特許出願は2000年(平成12年)です.)
本プロジェクトは2000年度,2001年度IPA未踏ソフトウエアプロジェクト(竹内郁男PM)の支援を受けました.

小ビット情報インフラストラクチャ

Pink Piyoko私たちは,ICカードやモバイルデバイスのユニークIDとそのIDを取得した場所および時間を手がかりとしてユーザの要求を特定し,適切なサービスを起動するサービス基盤を研究・開発しましたので報告します.本サービス基盤を通じて,街中にいるエンドユーザにさまざまな情報サービスを提供したりエンドユーザの意思表示を収集したりする可能性が広がります.

Pink Piyoko本サービス基盤の最大の特長は,個人情報の提供や事前登録などを必要とせずに匿名のままで参加できるところにあります.また既に流通し,ユーザが所有しているモバイルデバイスがそのまま利用できるところも特徴です.たとえば,非接触ICカードの代表としてFeliCaに対応しています.たとえばすでにSuicaを持っているユーザなら,カードを取り替えたり事前になんらかの登録をしたりすることなく,そのままサービスに参加していただくことができます.FeliCa仕様の社員証を発券している企業であれば,既存のカードそのままで,新しいサービスを追加することができます.本サービス基盤の上でならば,FeliCa仕様のICカードをはじめbluetooth規格の端末機器や各種ICカード,その他ユニークIDを持つモバイルデバイスをも統一的に扱うことができます.

なにがうれしいの?

Pink Piyokoこの技術は,エンドユーザからのメリットがたくさんあります.最近,いろんなお店でスタンプカードやクーポンカード,メンバーズカードなどを発行してくれます.ですから,普段持ち歩くカードの数はどんどん増えてしまいます.毎日必要なカードというわけではないのですけれども,普段持ち歩いていなければ意味がありません.かくして財布はいつも満パイです.しかし本サービス基盤を利用すれば,普段使っている一枚のSuicaの上に,多数の店舗の会員カードを兼ねることができるのです.類似の他のサービスでは兼用できるサービス数には限りがありますが(*),本技術ではサービス数に制限はありません.

(*)たとえばFelicaポケットのシステムなら一つのオサイフケータイに8サービスのみ.しかもカードの取り替えが必要です.

Pink PiyokoたとえばSuicaなら匿名のままで(しかも実質的に無料で)入手できますので,個人情報の漏洩に対する懸念も不要です.使い方もとっても簡単.駅構内や商業施設内で見かけた電子ポスターにSuicaをかざすだけ.コーヒーショップの電子ポスターから無料コーヒーのクーポンを入手できたり,観光地の写真の電子ポスターから興味があれば詳細な観光地の情報を入手したりできるようになります.いくつかの選択肢があるポスターも用意されています.

Pink Piyoko市場調査したいと考える企業やエンドユーザに対して詳細の情報を提供したいと考える企業にとっても,この技術は多くのメリットを提供します.誰でも気軽に参加することのできるマーケティングサービスを実現し,ユーザの利便性とマーケティング効果を最大化することが可能となります.特定の携帯電話をもっているエンドユーザだけをターゲットにするマーケティングでは,充分な効果はあげられません.また,エンドユーザにメールアドレスなどの情報を提供してもらわなければならないマーケティング手法は,近年エンドユーザから嫌われる傾向にあります.企業側としてはエンドユーザのプライベートな情報までは本当は必要がないということも少なくありません.匿名のままOne to Oneマーケティングが提供できることの威力を体感してください.

Pink Piyokoサービス提供者側にとってのメリットをまとめると以下のようになります.

  1. FeliCa仕様のカードならすでに持っているユーザが多い.つまりユーザが新規に特定のカードを入手しなければ参加できないといったハードルがない.特定の機種(ICカード搭載機種やバーコード読みとり機能付機種など)の携帯電話を持っていることを前提としなくてもよい.
  2. 事前に登録をする手間が一切不要の本システムならユーザが参加を躊躇する要素が少ないので,サービス提供者側(店舗側)は,会員獲得とクーポン発行が容易になる.
  3. 匿名のままでのOne to Oneマーケティングを行うことが可能.顧客情報の管理コストを必要最小限に抑えることができる.
  4. 携帯電話の面倒な操作など一切不要で,気になった情報を見つけたときにはカードをタッチするだけで利用できるという手軽さが提供できる一方で,携帯電話(電子メール)との連携も可能.
  5. 本サービス基盤を利用すれば,顧客を任意のサービスエリアに導くといった「動線変更」効果も期待できる.
  6. 宝探しやスタンプラリーといった,各種イベントを発生させることが簡単にできる.
  7. 我々のシステムはすでに全国規模での展開にも対応可能.サービス提供者自身でインフラ設備への投資は必要最小限で済む.
  8. すでにハウスカードを発行している事業体ならば,新規の付加価値をどんどん追加していける.

Pink Piyokoこれらの効果については,株式会社電通と東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)とともにJR新橋駅とその周辺商業施設(平成16年2月)、目黒駅とその周辺商業施設(平成16年11月),上野駅とその周辺商業施設(平成17年2月)においてマーケティングサービスの実証実験を行なっています.

解説

研究の背景

Pink Piyoko今後のユビキタス情報社会で提供される各種サービスには,サービス提供側ではなくユーザ側の視点に立って解決すべき様々な課題があります.ダイレクトマーケティングなどのマーケティングサービスはその代表例でしょう.特定の情報に興味を持つユーザにだけ許諾を取った上でその人が欲しがる情報を個々に届けるOne-to-Oneマーケティングは効果の高いことが知られています.しかし携帯電話等でこれを実現しようとすると,事前登録を必要としたり,携帯電話のソフトウェアを操作したりユーザを躊躇させるような面倒さが伴います.なにより個人情報を登録することには心理的な抵抗が大きく,マーケティング技術の関係者の間ではそのことが大きな問題の一つとなっています.

研究の経緯

Pink Piyokoこれらの問題点を解決するために,産総研(山本吉伸主任研究員のグループ)では主にユーザインタフェース研究の立場から,小サイズの情報パケットの有用性に着目してきました.そして分散サーバ環境における小サイズ情報パケット制御ソフトウェアやユニークIDを統括管理するデータベース等を有機的に組み合わせたモバイル情報インフラの研究を行なってきました.本サービス基盤技術はそれらの成果の集大成です.本技術およびそれを実現するソフトウェアを利用することで,ユーザの利便性と安心感を両立する「匿名でのOne-to-Oneマーケティング」等が実現されます.

Pink Piyoko産総研ベンチャー開発戦略研究センターは,本技術を将来社会の重要な基盤技術になると判断し,実用化の支援を行なってまいりました.そして2005年3月,産総研発ベンチャーの設立に至りました.

今後の予定

Pink Piyoko本技術は今後さらに研究を進めることにより,次のような3つの方向に展開する予定です.

  1. これまで独立していた各種のメディア(携帯電話、インターネット、テレビ、街頭広告等)を有機的に連携させシナジー(相乗)効果を持たせる技術を実用化していきます.これによってポスターで見つけた情報を自宅のテレビで見るなど新しいモバイルサービスが実現されるでしょう.
  2. 各ユーザに対してより価値の高い情報を提供するサービスを行う場合は,非匿名サービスに誘導する手法を確立します.すでにコミットメントのあるユーザに対する段階的な誘導は,最初の段階で個人情報を聞き出さなければならなかった従来型のサービス提示よりも効率がよいと期待できます.
  3. FeliCa以外の各種非接触ICカードやbluetooth等の無線デバイスへの対応を本格化します.特に10m程度の通信距離を有するデバイスへの対応によって,より能動的なサービスを提供する基盤へと進化するでしょう.

デモ

Pink Piyoko2003年度パブボードプロジェクトのページに,いくつかのデモ映像を準備しています.不十分ながらコンセプトについての解説もあります.

Pink Piyokoプレスリリース向け映像素材はこちらにあります.御利用下さい.(準備中)


mail iconyoshinov.yamamoto@aist.go.jp