(last update : Mar/02)

有益な情報サービスのポイント

便利な情報サービスを考える上で,福沢諭吉『文明論之概略』の次の一節はとても示唆的だ.

「事物の得失便不便を論ずるには、時代と場所とを考えざるべからず。陸に便利なる車も、海にありては不便利なり。昔年便利とせし所のものも、今日に至ては既に不便利なり。またこれを倒にして、今日の至便至利のものたりといえども、これを上世に施すべからざるもの多し。時代と場所とを考の外に置けば、何物にても便利ならざるものなし、何事にても不便利ならざるものなし。故に事物の得失便不便を論ずるとは、その事物の行わるべき時節と場所とを察するというに異ならず。時代と場所とにさえ叶えば、事物に於て真に得失はなきものなり。/中古発明長柄の鎗は中古の戦に便利なれども、これを明治年間に用ゆべからず。東京の人力車は、東京の市中に便利なれども、これをロンドン、パリスに用ゆべからず。戦争は悪事なれども、敵に対すれば戦わざるを得ず。人を殺すは無道なれども、戦のときには殺さざるを得ず。立君専制の暴政は賤しむべしといえども、ペイトル帝の所業を見て深く咎むべからず。忠臣義士の行状は好みすべしといえども、無君の合衆国を評して野蛮と称すべからず。彼も一時一処なり、此も一時一処なり。到底、世の中の事に、一以てこれを貫くべき道はあるべからず。ただ時と処とに随て進むべきのみ」(福沢諭吉『文明論之概略』岩波文庫、165-166頁)。

彼が言っているのは「便利/不便利はコンテキストに依存するのだ.」ということに他ならない.コンテキスト認識こそが,次世代に求められる情報サービスの一つのポイントだと考える人は増えている.


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