多言語災害情報配信システム アタラクシア プロジェクト原簿 (last update : 10.Dec.01)

プロジェクト目的

日本には,日本語を母国語としない人々(非ネイティブ)も多数生活しており,その数は増加傾向にある.有益な地域の情報を,非ネイティブとも共有することは,結果として地域全体に利益をもたらすと断言できる.しかし私たち(行政や地域住民の双方)は彼らと充分に情報共有しているとはいえない.特に災害時の情報伝達は,生死にかかわる重大問題であるにもかかわらず,阪神淡路大震災の経験を充分に活かすことができると明言できる地域コミュニティは決して多くない.

そこで本プロジェクトでは,特に災害時に日本語を母国語としない人に対して正確な地域情報を提供するための多言語災害情報配信システム「アタラクシア」を提案する.本プロジェクトは,地域に住む人と人をつなぐメディアを創生しようとするものであり,実用の観点を重視して技術開発を行うこととする.

「アタラクシア」には主に以下の4つの論点での議論を反映させる.

1.入力文意の正確性の向上
一般的に,必要な情報を簡潔に且つ正確に表現することは,簡単なことではない.災害発生時などで混乱した状況においてはなおさらであろう.公衆に向かっての情報発信に不慣れな人々が作成する広報文章は,日本語を母国語とする人々であっても往々にして,意味が不明瞭になってしまったり重要な情報の記載を落としてしまうことがある.非ネイティブでも容易に理解できるようにしようとすれば,入力者には一層の注意が求められる.また,情報発信をする手間がかかれば情報を発信しようとする人は減少し,得られる情報に欠落が多ければその情報源を参照しようとする人も減少する.結果としてシステムは機能しないことになる.
2.非ネイティブに対する自然言語に関する配慮
非ネイティブに対して正確に情報を伝達するためには,正確な翻訳が必要である.24時間体制で各国語のための翻訳者を確保できるならば問題ないが,一般的には機械翻訳技術に大きな期待が寄せられている.しかし残念ながら日英翻訳に限っても完全な自動翻訳は実現されておらず,そもそも日本語を母国語としない人々のすべてが英語を容易に理解する,という前提も非現実的である.数千にも及ぶといわれている自然言語のすべてに対応することは,翻訳者,機械翻訳の双方ともに著しく困難である.
3.情報提示の機会の創出
どうやって多くの視聴者に情報を提供できるかという問題は必ずしも工学上の論点ばかりではないが,システムとして機能させるためには充分に議論しておく必要がある.特定のコンピュータへの配信やモバイル端末への情報提供だけでなく,ユビキタスコンピュータ社会と呼ばれる次世代の情報環境に求められる役割についても議論する必要がある.
4.平時での利用機会の増大
災害時に本領を発揮するようなシステムは,平常時から利用されていることが必須である.これは,多くの関係者が災害システムの利用経験から指摘するポイントである.そのような情報システムは,地域コミュニティに日本語を母国語としない人々を迎え入れる(我々の言う”真の日本の国際化”)という観点からも強く実現が求められる.行政だけではなく地域住民も当事者としてこの問題に取り組むことが必要である.

なお,本システム名のアタラクシアとは,ギリシア語[ataraxia]で <心の完全に静かで安らかな状態 >のこと.ギリシャ末期,世の中が騒がしくなって思想の混乱が生じたとき,エピキュロスの唱えた学説の中心概念.彼によれば『人生の理想は快楽を得ることにある.しかしそれは肉体的,官能的快楽ではない.結婚せず,子供をつくらず,世の中からかくれて生活し,心に完全な平衡がたもたれていて(これがアタラクシア)こそ最高の快楽が得られる』.ataraxiaはa-(否定辞) とtarassein(混乱させる)の合成語.アタラクシアをラテン語の翻訳に充てた言葉がsecurusあるいはsecuritas(「欠如」を意味する接頭辞のse-と,「気づかい」を意味するcura(英語のcareの語源)の合成語)で,これは英語のsecurityの語源である.(参考文献:思想の科学研究会編『増補改訂 哲学・論理用語辞典』,青土社「現代思想」1999.10 村上陽一郎,市野川容孝「安全性をめぐって」)

研究情報(公開情報)

実施グループ

研究計画

入力
設計
01.12.01 〜 01.12.31
実装
02.1.01 〜 02.1.31
処理
設計
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実装
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出力
設計
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実装
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日常利用
設計
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実装
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研究情報(非公開情報)

支援環境

関連情報/URL

「災害時における多言語情報のネットワークづくり」事業 講演会報告 (平成12年3月(財)横浜市国際交流協会)
災害の現場でなにがあったのか,を詳細に報告しています.本プロジェクトの発足のきっかけとなった講演録.
災害が起こったときに外国人を助けるためのマニュアル(弘前版)<コミュニティ版>
災害時にどうするのか,どんな情報が必要なのか,どんな言葉をつかうべきなのかがマニュアル化されています.

mail iconyoshinov.yamamoto@aist.go.jp