多言語災害情報配信システム アタラクシア プロジェクト原簿 (last update : 10.Dec.01)
日本には,日本語を母国語としない人々(非ネイティブ)も多数生活しており,その数は増加傾向にある.有益な地域の情報を,非ネイティブとも共有することは,結果として地域全体に利益をもたらすと断言できる.しかし私たち(行政や地域住民の双方)は彼らと充分に情報共有しているとはいえない.特に災害時の情報伝達は,生死にかかわる重大問題であるにもかかわらず,阪神淡路大震災の経験を充分に活かすことができると明言できる地域コミュニティは決して多くない.
そこで本プロジェクトでは,特に災害時に日本語を母国語としない人に対して正確な地域情報を提供するための多言語災害情報配信システム「アタラクシア」を提案する.本プロジェクトは,地域に住む人と人をつなぐメディアを創生しようとするものであり,実用の観点を重視して技術開発を行うこととする.
「アタラクシア」には主に以下の4つの論点での議論を反映させる.
なお,本システム名のアタラクシアとは,ギリシア語[ataraxia]で <心の完全に静かで安らかな状態 >のこと.ギリシャ末期,世の中が騒がしくなって思想の混乱が生じたとき,エピキュロスの唱えた学説の中心概念.彼によれば『人生の理想は快楽を得ることにある.しかしそれは肉体的,官能的快楽ではない.結婚せず,子供をつくらず,世の中からかくれて生活し,心に完全な平衡がたもたれていて(これがアタラクシア)こそ最高の快楽が得られる』.ataraxiaはa-(否定辞) とtarassein(混乱させる)の合成語.アタラクシアをラテン語の翻訳に充てた言葉がsecurusあるいはsecuritas(「欠如」を意味する接頭辞のse-と,「気づかい」を意味するcura(英語のcareの語源)の合成語)で,これは英語のsecurityの語源である.(参考文献:思想の科学研究会編『増補改訂 哲学・論理用語辞典』,青土社「現代思想」1999.10 村上陽一郎,市野川容孝「安全性をめぐって」)